葛城乙女 蛇足3

 ミサトさんは朝にあまり強くない。


 7時ごろに起きたボクがピザトーストを焼き、コーヒーをドリップし終わった頃に、ニオイに誘われたようにやっと起きだして来る。
 「おふァ…よ〜」
 アクビをかみ殺して朝の挨拶。ヌボーっとしていて、まだ完全に目を覚ましていない。
 「…顔、あらってくるわァ」
 目やにをこすり落としながら、洗面所へ消えるミサトさん。
 その間にコーヒーをカップに注いで、ピザトーストをお皿に切り分けておく。食パンをもう一枚、トースターに入れてタイマーを回す。
 「やー、いいにおい。いつも悪いわねー」
 洗面所から目がはっきりと開いたミサトさんが戻ってきて、食卓につくと朝食が始まる。
 食事中に会話はほとんどないけれど、「ピザトーストおいしーわぁ」とか「コーヒーおいしくはいってるねー」など、いちいち食べたものを褒めてくれる。ちょっとこそばゆい。
 なので、いつも変わり映えしない朝食デスケドと返すと、「えーでも具はかわってるじゃない」とピザにかじりついてチーズをびろーんと伸ばし「今朝はタマネギとピーマンの薄切りが入ってる」ホラホラと伸びたチーズを指でさす。
 ちゃんとわかって食べてくれてるんだ。またもこそばゆい。
 ピザトーストを食べ終えたころ、トースターがチンと鳴り、もう一枚トーストが焼きあがった。「ん、切るわ」とミサトさんが自然に席を立ち、台所でトーストを二つに切り分けバターをぬってくれる。
 座ったままそれを待つボク。…。
 朝の斜光がニス塗りのテーブルを照りかえり、ちょうどキッチンに立つミサトさんの後姿をキラキラと…
 「はーいシンジく…ん? どしたの?」
 あイエなんでも。
 受け取ったトーストにはついでにジャムも塗ってあった。こそばゆい。
 トーストも食べ終わり食器をまとめ始めたころに、チャイムが鳴った。インターフォンに立つミサトさん。「シンジくーん、おむかえ」
 じゃあイッテキマスとカバンを持ったボクに「あ、今日いくからねガッコに」え?「進路相談っ」今日は午後から進路相談だった。
 スミマセン忙しいのにと頭を下げると、ミサトさんは首をふり「これも仕事よ?」口をきゅっと結んで苦笑いした。


 迎えに来たトウジとケンスケと一緒にマンションの廊下を歩いてゆくボクの耳に、「うーん、保護者役…かぁー…」という遠いつぶやきがぽつりと聞こえた。
 振り向くと、ちょうどむこうで玄関の扉が閉まる。
 「どうしたイカリ?」
 立ち止まったボクにケンスケが「忘れ物か?」と聞いてくる。
 うん、忘れ物した。
 マンションの扉にとんぼ返りするボク。
 チャイムを鳴らし「はいどちらさま?」と返ってきたミサトさんの声にかぶるようにして、進路相談の後の予定を聞く「あれシンジくん? あーうーんと今日は有給だからそのまま家に」じゃあお買い物ですね。夕飯の食材を一緒に。「えっ? うんイイケド…」じゃイッテキマス。また学校で。「うん…イッテラッシャイっ」


 エレベータの前で待つ2人に合流した。
 「なに話しとったんや?」
 「ネルフ関係のことかぁ?」
 いや、ううん、なんでもない。


 デートのお誘いとは、言えぬのである。
 


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